ビニール傘
世の中にはたくさんのビニール傘があります。私も持っています。以前まで使っていたビニール傘が、とうとう壊れてしまったので、新しいビニール傘を買いました。黒い持ち手のビニール傘。私は早速、持ち手にマスキングテープを一巻きしました。これで傘立てに並んでいても、他の人に持っていかれる事が少なくなりますし、自分の傘という目標にもなります。傘を開いたビニールの部分には、小さな青い鳥のシールを貼りました。縁が透明なその青い鳥のシールは、ビニールに溶け込んで、まるで傘に描かれている様に見えました。こうして世界に一つしかないビニール傘になりました。
貧しい生活の中で、五百円のビニール傘は大変重宝します。私はその傘をいつも大切に使います。ビニールの部分が薄汚れて、透き通って見えなくなってきても、晴れた日にはビニール傘を開いて水拭きして、お日様にあてて乾かします。そうして長い事使っていた以前の傘は、経年劣化によりとうとう壊れてしまいました。
黒い持ち手のビニール傘を使う様になってしばらく経ちました。すると、こんな事がありました。
出先に傘を忘れて、慌てて取りに戻った時のことです。保管してくれていた人が
『ただのビニール傘なのにそんな慌てなくても』
と言いました。
『いいえ、これは私のお気に入りなんです』
私はそう答えて、お礼を言ってからうちに帰りました。保管してくれていた人はきっと、変わった人だなぁ、と思ったかもしれませんね。
またあるときはこんな事がありました。
信号待ちをしていた時のこと、隣にいた小さな女の子が、なんとも可愛らしいピンクの模様の入った傘をさしていたので、
『可愛らしい傘ですね』
と私が言うと、
『おじさんのは普通のビニール傘なんだ、可愛い傘にすればいいのに』
とその子が言ったので、
『よーく見るとおじさんの傘には鳥さんがいるんだよ。』
と話して、ゆっくりと傘を回してみせると、
『あ、ほんとだ!青い鳥さんがいる』
と笑顔になりました。
どんなものでも、気持ちを込めると、それは特別になります。きっとそれは世の中にはわずかな違いなのかもしれませんが、その人にとっては大きな特別になる事もあります。
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