愛車



   僕は車に詳しいわけでも、車が好きなわけでもない。子供の頃、父親が車を買い替えるたびに、物珍しい色や形を少しだけワクワクしながら見たものだ。
18歳で免許を取り、最初に乗った中古の赤いミラパルコは今でも覚えている。高いお金を払って買っても、安く買っても、移動手段としては同じだから、安くて良いのだ。20代の頃はBMWやベンツに憧れた事もあったけれど、身の程に合った車が、今は一番良いと思っている。

もう10年以上も前から乗っているスズキの軽自動車アルト。窓を手回しで開けるという、かなりレトロな車。2ドアなのに、買いに行った当時のお店の宣伝には背伸びして「3ドア!」(笑)と書いてあったり(トランクを含めて)。CDが聞けます!と今ではほぼ当たり前な装備を得意げに宣伝していたり。僕自身も38万円の車を72回払いで購入するという、新車でもないのに6年ローンで、貧乏だった当時の自分にはぴったりの車だ。そんなアルトに名前もつけて、僕の中では移動手段であると同時に、相棒のような存在だ。身の程に合ったその車と10年以上。僕の身の程は10年前と変わらないのだけれど、アルトを車検に出す時、とても寂しい気持ちになった。

「しっかり診てもらえよ」

しばらくしたらまた会えるのだけれども。

ああ、これが愛車というやつか。

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